犯人は被害者を『面接』している(3)
さて、私はようやく老人の車から下りました。
この時点での私は、老人が悪人だと確信できていません。
「この人ヤバい!」とは思ってなくて「漢方薬イヤ」が100%です。
だから大使館に連絡しようとは思いませんでした。
私は漢方薬をのまなくてすんだことにホッとしながらも、
「うーん、私はせっかくの好意をムダにしてしまった、つまらない人間なのかも。あんなにいい人そうだったのに……」
と気持ちがグラグラゆれていました。
➡ 魅力
ある種の犯罪者は、親切そうで優しそうで誠実そうです。
また、親密なムードを作るのに長けています。それは自分の真意を隠すためです。
こうやって文章にすると、怪しさ満点です。
しかしそれでもなお、私は「半信半疑」といった状態でした。
ああいう人と話していると、軽いマインドコントロール状態に陥りますね!
ついていってしまったのは「話し込んだ」からです。
詐欺師とは会話してはいけません。一切のコミュニケーションを遮断しましょう。
皆さま、犯罪者のコミュニケーションスキルの高さをなめない方がいいですよ。
よく「言葉巧みに誘い出して……」といいますね。やはりプロです。
「私はいい人だよ」「一緒に行くのが当然だよ」「疑うなんてひどいよ~」という雰囲気をつくるのがうまいんです!
多くの人は、身長2mの大男には「とても勝てないな」と素直に思います。
けれど一流詐欺師を前にしても「そんなの騙される方がバカなんだよ~」と高をくくっています。
それほんとキケン。
「腕力の差はどうしようもない」というのと同じく、
💡 「コミュ力の差がありすぎてどうしようもなかった」というケースもあるのです。
だから被害に遭った人を責めてはいけませんよ。
もしこの後、また老人と再会したらヤバかったですね。
「せっかくの親切を断ってしまった」と罪悪感を感じて、老人を信用していたかもしれません。
➡ 罪悪感があると、人からコントロールされやすいのです。
けれど幸いにも、そうしたことはありませんでした。
今回は使われていませんでしたが、他にもいろいろな面接テクニックがあります。
➡ レッテルを貼る 「日本人は、現地の人とは話したくないだろうけれど~」などといい、そのレッテルに逆らう行動をうながす。
➡ 高利貸し 自分から親切を施して、後々相手を断れないようにする。食事をおごる、観光ガイドをする、などです。
周りは高級住宅地で、特に何も用事はありません。
私はそこからタクシーを拾って、ホテルまで帰りました。
私はホテルで、日本から持ってきたカロリーメイト(無毒)を食べながら考え込みました。
うーん、あの人はいい人だったのだろうか? それとも睡眠薬強盗か?
小柄でやせてて親切そうで、太極拳でもしていそうな人である。悪人っぽい感じはしない。→※思考
しかし、なぜ自分からカフェテリアの客に挨拶して、そしてその男性は妙に冷たく答えた?
そこには「青い顔」とでもいうような、冷たさがありました。
何だか気になるなあ~。 →※直感
もしかして老人と男性は初対面だったのではないか? 私に何かを信用させるためだったのでは?
「私はこの公園によく来ていて、顔なじみの人もいるよ」と?
なぜそんなことをする必要がある? 自分が信用ならない人物であるからでは?
それにあのアルバムの位置もおかしいし、病気の奥さんを放ったらかしにして、日本娘をナンパなんてけしからん。
そもそも、奥さんは実在するのだろうか? 写真で人種まではわからないしね。
日本大使館前での、苦し紛れな言いわけも変だし。→※事実
その時ふと「仲間がいたら死んでたよな」という考えが浮かんできました。
うむ。また、いつどこであの老人と出くわすかもしれない。
明日は、繁華街に行くのはやめよう。そして、悪人が絶対来なさそうな場所に行こう。
私は予定していた観光地巡りをすべてキャンセルして、残りの日程は、美術館や博物館に行きました。
ここなら入館料いるから、入ってこないだろう。警備員の人も巡回してるだろうし。
あと、夜は日没後は出かけないようにしました。
夕食は屋台で持ち帰りのもの(汁なしの油麺とか、チャーハンとか)を買ってきて、部屋で食べました。
ふー。これならドラッグを入れられる恐れはないでしょう。
シンガポールで警戒しすぎですか?
でもラン園での再会は、偶然だとは思えません。「下見」されてたんでしょう。
ノンキに鳩とたわむれてましたが、尾行なんてちっとも気づきませんでしたよ。
午前中のラン公園という、最も平和的な場所で、人身売買グループ(?)が獲物を求めて徘徊してるんです。
もしあれがスナッフビデオの出演依頼だったらどうするんですか。そりゃビビるわ。
おかげで、無事に帰って来られました。
さて、今回のまとめです。
犯罪者は、自分の目的を遂げようとするため、巧みに親切さを装います。
そして被害者自身も「自分は安全だ」と思いたがります。
その活路を開いてくれるものは何なのか?
それが「直感」という危険信号なのです。
違和感があるものには、すべて「NO」と言いましょう。
100%の「YES」でない限り、進んではいけないのです。
💡 多くの犯罪というのは、いきなり「犯罪だ!」とわかるわけではありません。
犯人は、被害者を少しずつ誘導していきます。
「何かヘンだな」が積み重なって、とんでもないところに連れて行かれるのです。
でもそのたびに、直感は何らかのサインをくれます。「おかしいな」と思ったら、すぐに軌道修正しましょう。
だいたいの人は「今思うと変なのだが……」と言います。
けれど著者はこう断じます。
いまわかるなら、そのときもわかっていたのである。
直感による危険信号は、通常かすかなものです。
カフェの客のそっけない表情といった、見過ごしやすいものです。
危険信号を無視することは、自分を見殺しにするのと同等です。
何が直感の敵なのか。それは「否定」です。
「たぶん大丈夫だろう」「まさかそんな」「悪い人じゃなさそうだし……」と。
しかし、それは自分にとって都合のよい情報を集めているだけです。
親切と善良はイコールではないと、わたしたちは肝に銘じるべきである。
「そのとき、老人と婦人の二人組が話しかけてきた。優しそうな顔をしていた……」
「非常に明るく陽気で人懐っこく振る舞い、悪のオーラは全く感じさせない……」
相手はプロの犯罪者です。そう見せる必要があるから、そうしています。
俳優の演技を見ているのと同じです。「~~そう」は、まったく当てになりません。
証拠なんていらんのです。
相手のペースに巻き込まれないよう、礼儀をかなぐり捨て、その場の雰囲気をぶち壊しましょう。
意思表示する強さを持ちましょう。侍のようにキッパリと断るべきです。
「見知らぬ人の………お誘いはお断りします!」と言えばいいのです。
「ああ、この人はやっぱり悪人だったんだわ!」……そうとわかった時には、既に手遅れでは?
確信を待っていたら、死んでしまいますがな。
他の方のブログ見てると空恐ろしいですね。
「口をつけただけで昏倒、自白剤の作用でキャッシュカードの暗証番号を喋ってしまう」って。
何ですか、この犯罪者にめちゃくちゃ都合のよい薬は!?
こんな劇薬、絶対死んでる人いるって。
💡 「理由はよくわからないけど、何となく不安」のうちに虎口を脱しましょう!
確かに、証拠は何もないですよ。
老人が日本語を読めたなら「わっ、妻に内緒で声をかけただけなのに、人さらい扱いされてる! ひどいよー!」と思うかもしれませんね。
でも、作中ではこう書かれています。
本当に善良で、なんのもくろみもない男、あなたから何かを得ようなどと考えていない男は、向こうから声をかけてきたりはしないものだ。
ですよねー。
だからどんなに非合理でも、体裁が悪くても、みっともなくても、やっぱり直感には従った方がいいのです。
ああ、それと不思議な話をひとつ。
この旅行に行く前、なぜだか私は急に「不透明な白い石」が欲しくなりました。
そして、ごく安いものですが和田(ホータン)の白玉のビーズを一個手にしました。
後から調べると、和田の白玉は「旅の安全を守る・平安の維持」という意味があるそうです。
旅のお守りというと、ターコイズが有名ですね。
でも私としては、この経験から断然「和田の白玉」をおススメします。
それにこの旅行では、愛用のペンをなくしてしまいましたねー。
もともと私は失くしものはほとんどしないタイプです。
身代わりってやつでしょう。
まあこんなふうに、さまざまな事象が危険をお知らせしてくれます。
人間は恐怖を感じます。
しかしそれは忌むべきものではなく、大切な危険信号をもたらしてくれます。
それが原題「THE GIFT OF FEAR」(恐怖からの贈り物)の意味です。
最後に、著者の言葉を紹介しておきましょう。
どんな場合にも適用できる対処法はただ一つ、直感に耳を傾けるということだけである。
あなたが危険な状況に置かれたとき、わたしにはどうするのがいちばんよいかを決めることはできない。
必要な情報が全部あるわけではないからだ。でもあなたには、すべての情報がある。
テレビがこうすべきだと言ったとか、雑誌にこうしろと載っていた、あるいは友だちがこうしたと聞いた、そういったことにまどわされてはならない。
あなた自身の直感に耳を傾け、そこから生まれるあなた自身の知恵にしたがうべきなのである。
お互い直感を大切にして、セーフティな人生を送りましょう!