犯罪者は被害者を『面接』している(2)

 

さて、私はシンガポール旅行の最中、怪しい老人の車にうかうかと乗り込んでしまいました。

いったいどうなる?!

 

今書いてて思いますが、ジョホール水道に浮いててもおかしくないシチュエーションですよね。

何があろうと車に乗ってはいけません。

 

「ブラックボックス」という本によると、たとえ銃で脅されても、車に乗ってはいけないそうです。

「そこで足跡が完全に途絶えてしまうから」ですね。

この本の中では「銃で脅されたなら、撃たれて地面に血を残しなさい。そうすれば証拠が残って追跡できるから」 というハードボイルドな教えが紹介されています。

 

確かに、車に乗ると死亡率が一気に跳ね上がってしまいます。

みんなも覚えておいてね☆

 

 

さて私は車に乗った途端に、こう思いました。

「なんで車のダッシュボードにアルバムが置いてんの?」と。

気づくの遅すぎィ!

 

世界各国、そういうものは書斎かリビングに置くんじゃないでしょうか。

なぜそこにある。誰かに見せる必要があるから? 何のために?

 

老人はひっきりなしに「××はここから何キロで、どういういいところがあって~」と話しています。

 

余計なことをしゃべる。

犯罪者は、自分の真意を悟られてはなりません。

そのために、相手に色々な情報を与えて煙幕を張ろうとします。

しかしそれ自体が、まさにバレバレな証拠となるのです。

私も老人が見せてくれたアルバムによって、老人に疑念を抱きはじめました。

 

私は「そもそもこの人の奥さんは本当に日本人なのか? 話せばイントネーションですぐわかるだろう」と思い、話をぶったぎって問いかけました。

 

私「あなたの奥さん、いま家にいるか? わたし、あなたの奥さん会いたい。わたし紹介しろ。電話する」

老「……妻は病気で入院してるよ」

 

てめえ、病気の奥さん放ったらかして何やってんだよ?

女性としては反感を覚えますね。

何だか、この人微妙だなあ。いい人じゃないんじゃない?

 

車は住宅地をゆーっくり走っているので、飛び降りても大丈夫そうです。

でもロックかかってたらどうしよう。

お昼だけ食べてサヨナラしようかな~。

 

 

さて読者の皆さまは「この人、何でこんなにノンキなんだろう」と思うでしょう。

渦中にある時は、そんなもんですって。

 

💡 犯罪にまきこまれつつある最中には、それが犯罪だとハッキリ自覚できないものです。

 

人間は現状維持が大好き。

そしていつも「自分は安全だ」と思いたがります。

私もその心理作用により「ここが外国だということを忘れて・目の前の人間が初対面だということを忘れて」ノコノコとついていっているわけです。

正常性バイアスによって、災害から逃げ遅れた人と同じです。

 

・相手が老人だから? しかし仲間がいればおしまいだ。

・親切そうだから? でも病気の奥さんを放ったらかしにしてる、よくない人だ。

・また「中国語で話したい」という欲があったのが、いけなかったのでしょう。

 

 

老「じゃあお昼は××で(相変わらず聞き取れない)で海鮮鍋を食べよう。その後、とってもいい漢方薬のお店を紹介してあげるよ。日本人はみんなそれを飲んでるよ。それを飲むと精がつく。大丈夫大丈夫、高くないよ。安くしてあげるから~」

 

その途端、私はあるひとつのことを思い出しました。

以前私は、台湾で長期滞在中、骨折をしたことがあります。ただ単に階段で足を踏み外したのです。

骨折の治療は時間がかかります。そして、その医師とだんだんと話をするようになりました。

その人は台湾人で日本語ペラペラで名医です。そして東洋医学が大キライです。

 

医「フッ、日本人は足つぼとか漢方薬のお店好きですね~。でもマッサージなんて、あんなふうに皮膚を接触させると、何がうつるかわかりませんよ。たとえば、お互い目に見えないくらいの傷があったとしましょう。そこから何かが感染する確率はゼロではないんです。だからマッサージのお店行っちゃダメ。ハリも絶対ダメです! あんなとこの衛生状態なんてひどいもんです。ハリの使いまわしでどんな病気にかかるかわからない。それ日本製の使い捨てのハリなの? 滅菌する機械(オートクレーブ)あるの? ツバでなめて消毒してるだけじゃないの? あと漢方薬なんてね、あんなもの効くわけはないんです。ほんとに効果あるならね、製薬会社がとっくに研究開発して、市場に出てますって。それに漢方薬は、全部すりつぶして処方するからね。中に何入れられるかわかったもんじゃないよ。麻薬とか。 (※アッパーな麻薬の作用で、元気になったと勘違いさせるらしい) あんなところは、お金ない人が行く気休めの場所です。だからあなた行っちゃダメですよ。東洋医学ダメ絶対キケン、まともな台湾人は誰も行かない!!」

 

そういうくどくどしい忠言を思い出しました。

漢方薬 → 中に何入ってるかわからない → 睡眠薬強盗?

骨も折っておくもんですな。

 

えっ、偏見まみれ? でもこの局面では正しいアドバイスでしょう。

初対面の人間からの漢方薬はノーサンキューです。

 

そもそも、私は別に海鮮鍋を食べたくありません。お昼はラン園内のレストラン行く予定だったのに。

それに見も知らぬ人と食卓を囲むなんて、何だか緊張しそうでイヤです。

だいたい私は旅先で出会いを求めるタイプではありません。常に単独行動です。

それなのに、何でこんな人と一緒に行動してるんだろう? → この時、突如そう気づきました。

このままついていったら、海鮮鍋と漢方薬をセットで食べなきゃならなくなりそうです。それはイヤです。

とにかくその漢方薬だけは絶対イヤ。

よし、断ろう。

 

私「わたし行かない。車止める」

老「は? 何言ってるんだい。こんなところで下りたって、道がわからないだろう。もっと開けたところまで送っていってあげるよ」

私「下りる。今すぐ」

老「いいからいいから」

 

ノーの無視

犯罪者は、ターゲットの「NO」を巧妙に無視します。そうしないと目的が達せられないからです。

あなたの「いいえ、結構です」を無視する人は、犯罪者です。

 

私「Hey,stop it! Changed my mind,now!!」

私は英語でギャーギャーわめきはじめました。

どんなに図々しいラテン系男性でも、これで退散するでしょう。

 

老「わ、わかったわかった! 日本大使館に連れて行ってあげるから」

私「はー? わたしそれ言ってない。今ここで車止める」

老「私は潔白だ! 何もするつもりはない! だから私はあなたを日本大使館に連れて行っても平気だ。そうすれば、あなたも私が誠実な人物であるとわかるだろう!」

 

頼みもしない約束

たとえばこんな理屈が通るでしょうか。

「僕は君の部屋に行っても何もしないよ。ほら、その証拠に君を裁判所前まで連れて行ってあげよう。ほーら、僕が高潔な男だとわかっただろう?」

ただ裁判所の前通っただけじゃん。

 

ナショナルオーキッドパークと日本大使館は、ごく近距離にあります。

言い争ってる間に、すぐ到着しました。

 

老「ほらほら、ついたついた! ねっ、私のいった通りだろ? さあ、どうぞどうぞ! 大使館に駆け込みたいのなら、そうしたまえ。私は何も怖くはないよ!」

 

あなたなぜ「わたしアヤシクナイヨ」ばっかりいうか?

 

私は車から下りました。ロックはかかっていませんでした。

世の中には、中から開けられないように細工した車もあるらしいですね。そうでなくて本当によかったです。

 

老人は「ああ。やれやれ! 何てこった。そんなに人が信じられないなんて! お昼一緒に食べようと思っただけなのに。考えすぎだよ!」とブツブツ言いつつ、車を走らせていきました。

遠ざかっていく車……。

 

大使館の門番の人が「何か用事かな?」と、こっちを見てます。

まあ、真ん前で下りたんなら、そう思うでしょうね。

 

 

本の中で著者は、犯罪者が犠牲者を選ぶ過程を「面接」と呼んでいます。

犯罪者といっても、すぐに他人を襲うわけではありません。

色々と「お試し」の行動を仕掛けて、自分がコントロールしやすそうな人間を選別しているのです。

犯罪の成功確率を高めるためですね。

 

💡 たとえば痴漢行為では「手の甲やこぶしで体をなでる」「傘やカバンを押しつける」「酔っ払ったフリをしてわざとぶつかってくる」「満員電車でもないのに壁ドン体勢」などのお試し行為があります。黙っていると99.9%エスカレートします。即座に離れるか、不快だという意志を表明しましょう。

 

被害者に選ばれるかどうかについては、近づきやすさや周囲の状況など、被害者の側でコントロールできる要素も多いのである。言い換えれば、その部分にはこちらの影響力を行使できるのだ。

なかでも犯罪者がしかけてくる「面接」にどうこたえるかは、重要なポイントになる。

あなたが話したくない相手とも我慢して話をするタイプか、手助けしてもらったからと恩に感じ、相手の言いなりになるタイプか、それとも相手のコントロールに断固抵抗するタイプか、あるいはもっと大事なことだが、自分の直感を大切にするタイプか、そういったことを相手は観察している。

 

老人は、かなりあっさりと私を解放しました。

本当にただの善人だったのか……。

それとも「面接不合格」となったのかもしれません。

 

さてその後はどうなったのか?