犯罪者は被害者を『面接』している(1)
皆さま、レイプカルチャーという言葉を知っていますか?
被害者側にだけ「気をつけなさい」といって、加害者側は野放しの文化です。
まあ、世界中がそうですわな。
なので「気をつけましょう」的な記事を書くのはためらいもありますが、役に立つ知識なのでシェアしましょう。
ここで一冊の本を紹介しましょう。
『暴力から逃れるための15章』 著 ギャヴィン・ディー=ベッカー です。
2018年現在『暴力を知らせる直感の力 ──悲劇を回避する15の知恵』として、改訂版が出版されています。
これは「人はどうやったら犯罪を避けられるか?」の一大テーマに取り組んだ本です。
この著者は幼い頃から凄惨な家庭内暴力に遭っており、かつ今では重要人物を守る警備会社の社長さんです。
まさに、生き残るためのスペシャリストだと申せましょう。
この著者が一貫して主張しているのは
「直感を信じろ! そうすれば助かるぜ!」ということです。
この本を参考にしながら、私の犯罪者との遭遇と、その時の直感の用い方について見ていきましょう。
ぜ~んぶ実話です。
2014年4月、私はシンガポールに一人で旅行に行きました。
シンガポールってどんなとこかな~、と興味が出たのです。
旅行初日の午前中9時半くらい、私は「National Orchid Garden」(シンガポール国立ラン園)を訪れました。
のんびり遊歩道を歩いていると、途中、小柄でやせた白髪の老人があいさつをしてきました。
太極拳でもやってそうな感じの、中華系の70代くらいのおじいさんです。
私は、あいさつを返して通りすぎました。
その後いろいろなエリアを見て回りました。一時間くらい経っていたと思います。
公園内のオープンカフェでオレンジジュースを飲んでいると、その老人が前を通りかかりました。
視線が合います。
私は「あっ、さっき会った人だな」と思いました。
老人は、にこにこしながらこっちに近寄ってきます。
その老人は、私の近くに座っていた、クリーム色のラブラドール犬を連れた白人男性にも親しげに挨拶をしました。
男性は老人に挨拶を返しましたが、すぐにフイと目を伏せました。
あれ? 何だか男性の表情が冷たいような……。
💡 なんでこんな描写が必要なのか、と思うかもしれません。
これは『些細なことだが、妙におかしいと思った』ことなのです。
私は「あれ、このおじいさんは男の人と知り合いなのか? そうじゃないのか?」と感じました。
老人は片言の日本語で「こんにちは。どこから来たのかね?」的なことを言ってきます。
私は「これは中国語の練習になるだろう」と思って、すべて中国語で話すことにしました。
以下、私の発言はカタコトの中国語です。
私「わたし大阪からきた」(神戸の発音を忘れたので、大阪といった)
老「あれ、あなた日本人ではない? 台湾人ですか?」
私「わたし日本人」
老「そうかね。それにしてはずいぶんなまっているねぇ。台湾人かと思ったよ」
私「わたしの中国語の先生、台湾人」
老「ふうん、そうなのかい。私の妻は日本人なんだよ。大阪の下のあの場所……なんだっけ」
私「和歌山?」
老「そうそう、和歌山出身なんだよ~」
➡仲間意識の押しつけ
さて、ディーベッカー先生は、犯罪者の使う心理テクニックをいろいろと紹介しています。
そのひとつがこれですね。老人は私の出身地を聞いてから「私の妻の出身地は、あなたの故郷と近い」という情報を与えました。
もし私が東京だといったら、神奈川だといったかもしれません。
こうやって、相手との心理的な距離を縮めようとするのです。
老「私はすぐ近所に住んでるんだ。毎朝散歩にくるんだよ」
私「そうか」
老「シンガポールはいいところだよ。〇〇がきれいで、△△も美味しいし~」
私「そうか」
老「私の名前は〇〇だよ」
私「よくわからない。紙に書いてくれ」
老人は繁体字で、なかなか達筆な文字を書きました。
後で発音を調べるために、紙をもらおうとしましたが、老人は紙を懐にしまってしまいました。
というわけで、この人の名前はわからないままです。
➡親切
明るく親しげで、いい人そうです。でも私とこの人は、まったくの初対面なんですよね。
セールスマンも博打うちも、笑顔を忘れません。なぜならカモに逃げられると困るからです。
老「じゃあ、これから××へ行かないかい? 案内してあげるよ」
その時私は「××」というのが、何だか聞き取れなかったのです。
そしてこのラン園は、めちゃくちゃ広いです。
この公園内の名所スポットへ連れて行ってくれるのかな~と思いました。
老人の後にてくてくついていくと、妙に人気がなくなってきます……。
「?」と思っていると、駐車場につきました。
そこには一台の車があります。
あれ、さっき近所に住んでるって言ってなかったっけ。
近所に住んでる人がどうして車で来てるの?
また、この公園の周りは高級住宅地です。
そのわりには、別に高級車ではありません。シンガポール中を普通に走っていそうな車です。
老「さあさあ、乗って!」
車=密室=犯罪
私もレディーですもの。
相手が枯れススキのような老人でも、ためらってしまいますわ。
私「…………あなた、よくない人か?」
直球な質問です。語彙力がないのでこうなってしまいます。
老「……は、ハハハ! 何を言ってるんだい! そんなことはない。全然ないよ! ほらこのアルバムを見て、これが私の妻だよ。そしてこれが日本人の××さんで~」
老人は、車のダッシュボードからアルバムを取り出して見せてくれました。
中には、奥さんと友人らしき人が写っています。
私は「ふーん、そうか。まさかね」と思って、車に乗りこみました。
「おい、バカがここにいるぞ!」
ほんとですね。
けれどあなたも当事者になったら、どうなるかわかりませんよ~。
向こうもプロだから、ついていかせるオーラが出てるんですって。
また、こういう時はよく「平和ボケ」といわれますが、それはちょっと違います。
警戒はしてますよ。
しかしそのせいで、うまくリラックスできていないのです。
だから、より大きな違和感に気づかない。
💡 360度すべてのことに警戒していると、時々とんでもないポカをやらかします。
「なんでそんな簡単な手口に……」という時は、この心理が作用しているのではないかと思います。
基本はリラックスして、必要な時だけ警戒するべきですね。
さて、怪しげな老人の車に乗ってしまったカモはどうなるのか?
なんとゴルゴ13×外務省の、安全対策漫画です。大変面白いですよ。