今日は野尻抱影「除夜」なんてどうでしょう。

こんにちはー。

いよいよ大晦日ですね! いかがお過ごしですか?

 

年の瀬のバタバタを忘れさせてくれるようなエッセイをご紹介します!

星を愛し、星と共に生きた文人、野尻抱影の『星は周る』より「除夜」を引いてみましょう。

 

 

近くでも撞いていますと言われて、ラジオを離れると、なるほど、おんもりとした音が聞える。九品仏らしい。そこで思いたって襟巻をつけ、除夜の星を見に庭に下りた。周囲の木立は暗いが、東京は、一面の空明りで、その方向でも鐘が二とこ、三とこで鳴っている。

すばるはもう西南の天頂に遠ざかり、シリウスがほぼ南中して、オリオンはその西北で、三つ星も横一文字に近い。東南の高みでは木星がこうこうと輝いている。とりどりの寒いきらめきを見渡していると、さすがに逝く年の星だと感じられる。

星はそれぞれの速度で、それぞれの方向に動いている。私たちの地球も太陽に伴って、この一年の間に織女の方向へ六億キロ以上も近づいている。しかも、この除夜にこうして仰いで見ても、また何十年前の除夜にも、更に孫たちが私の年に達した除夜に仰いで見ても、すばるは、オリオンは、シリウスは、全天の星は今夜私が見ているのと寸分も変りのない景観を見せているだろう。

これが大自然というものの姿だ。こう思って私は、もう元日となった暖かい部屋へ引き返した。

 

星の美しさ、人生のはかなさについて語る、まさに冬の星空のような珠玉のエッセイ集です。
あなたは大晦日、どんなふうに過ごしますか?

良い元日を迎えられるといいですね!
今年一年どうもありがとうございました。来年も何卒よろしくお願いします。