性的な広告は女性の能力発揮をさまたげる ~『ステレオタイプの科学』より~
最近は広告における女性の扱いが議論されることがふえましたね。
うるさすぎるって? いやいや、そーともいえませんよ。
なぜならそれらは、実際に悪影響を与えている可能性があるからです。
今回は『ステレオタイプの科学』を取り上げましょう。
この本で指摘されているステレオタイプ脅威とはなにか?
とある超エリート大学。でも、黒人と女性は成績不振。
「それぞれの生徒は、各地の高校をトップで成績卒業したのになんで? 個人差があるとしても、人種別にわかれるのなんておかしくない?」という疑問からはじまりました。
著者クロード・スティール(黒人。←これ重要ポイント)は、その謎を解き明かすべく、調査に乗り出します。
すると、生徒たちは「黒人だからアホだと思われるのではないか……自分の成績を証明しなければならない!」「女性だから数学に弱いと思われるのでは……もしかしたら本当にそうかも?」と、余計なプレッシャーをかかえていることがわかった。
そのせいで本来のパフォーマンスが発揮できなかったのだ。
しかし「このテストは能力を証明するものではなく、問題の解き方を証明するものです」「このテストはいつも男女の成績が同じです」と一言かけるだけで、成績差が解消した。
この世に流布しているネガティブなステレオタイプは、実際に個人に影響を与えている!
さらに「そういわれないように」と、二倍がんばることによって、脳のワーキングメモリを消耗させ、高血圧になって不健康になり、ますます劣勢になる……という事実があります。
また「白人は運動神経がわるい、音痴」というステレオタイプの脅威も存在するので、誰もが無関係ではありません。
この本のなかで、女性を対象にした実験にふれてみましょう。
・とある男女のグループに「頭の悪い女の子」「パーティー好きな女子大生」という、ステレオタイプCMを見てもらった。それを見た女性の成績はわるく、見なかった女性の成績はいつも通りだった。p186
どんなCMなんでしょう。コーラ飲みながらキャッホー! とか?
・小さい女の子に「風景画」「人形を持った女の子」「ご飯を食べている子ども」の塗り絵をしてもらった。「人形を持った女の子」の塗り絵をした女子は、算数テストの成績がわるかった。p218
つまり五~七歳の女児でも、女の子が人形を抱いているようなありふれたサインによって、数学の能力を発揮できなくなるのだ。彼女たちは、自分の集団が数学でどのように見られているか十分に感じることができたようだ。
こんな「ありふれたサイン」で能力が低下するのだから、ちまたにあふれている女性をモノ化した広告がいかに有害なのか? 推して知るべし。
そういや、自己啓発本で一世を風靡した石井裕之(元ヒプノセラピスト)が「いくらお客さんに暗示をかけても、すぐに戻っちゃう。だって、日常生活でまたよくない暗示がかかっちゃうから」ということをいっていました。
またこれは広告に限った話ではなく「女性の数が極端に少ない」「女性用トイレや更衣室がない職場」なども、同様の脅威を与えます。
東大の女生徒数は二割らしいですが、かなりのステレオタイプ脅威が存在していると思われます。こんな性差別サークルがあるキャンパスで、安心して勉強できますか?
「東大女子お断りサークル」が抱える二重の差別 「伝統」理由に罪悪感なし
ではいかにしてそのステレオタイプ脅威を打破するか?
・女性の数をふやす。マイノリティではなくさせる。議会でのクォータ制の導入はかなり有効でしょう。
・自分を「人」として見てくれる、信頼できる人を見つける。
・指導者は生徒に「人種性別ではなく、あなたの能力を評価している」というメッセージを送る。
・知性は拡張できる、という信念を持つ。たとえば「脳は使えばどんどんよくなる!」という記事を読むとか。
・理数系の女性が難度の高いテストを受ける前に、優秀な女性ロールモデルのことを思い出すと、成績不振が消える。自分なりにロールモデルを設定する。
・自分とは違うタイプの人とも気さくに話して、共通理解のきっかけをふやす。
おもしろいのが「自分が大事にしている価値観を肯定させる」というワークです。
・自分にとって最も重要な価値(家族関係、友達関係、音楽で秀でていること、信仰など)を二つか三つ挙げ、その理由を一段落の短い文章で説明せよという指示が入っている。つまり、これらの価値観を個人のナラティブとして構築してもらうわけだ。p224
この、たった数行のワーク。
これをやると、以後二年以上にわたって、ステレオタイプ脅威にさらされていた生徒の成績はアップしたという……。
えー? そんなことくらいで?
スピ啓発本でよくある「自分の夢をノートに書こう」という手法とそっくりじゃないですか。あなたも今すぐやってみて!
ということは……。
コンビニからエロ本がなくなったおかげで、ステレオタイプ脅威がひとつ減り、女性の社会進出が進んだ。
けれど今でも、女性はファミマに行くたび、お母さん食堂から「わたしつくる人、ボク食べる人。昇進試験なんて受けてもムダじゃな~い?」とささやかれている?!
言霊、暗示、アファメーションの観点からいうと、けっして「考えすぎ」ではありません。
また、最近は女子児童向けのフェミ本が出版されてますね。
「女性ロールモデルを教える」という観点からは、とても社会的意義のあることですね。
私もこれ読んだんですけど、おもしろかったですよ。
絵のセンスがよく、その人選にうならされます。
『ステレオタイプの科学』は、著者が、黒人生徒としてステレオタイプの脅威を感じていた悩みを吐露したり、序文を書いた北村秀哉が「男らしさ」のおしつけを拒否していたりと、なかなかアツい本となっています。
ここで序文のすべてが読めます。興味のある方はチェックしてね!